さて、少々時間が経ちましたが、先日の枕崎の鰹節作りの見学で見たこと感じたことをまとめていきます。
今回は、巻き網漁で捕られたカツオと一本釣りで捕られたカツオの違いをお伝えします。
以前の記事で、巻き網漁で捕られたカツオは、巻き網の中で悶え苦しんで大暴れするために、絶命するまでに筋肉の中に乳酸が溜まってしまい、鰹節にしたときに酸っぱくなってしまうということと、アデノ三リン酸(ATP)という筋肉に含まれる物質が消費されてしまうので、自己消化によるイノシン酸への熟成量が減ってしまうということはお伝えしました。
しかし、今回枕崎で話を聞いたところ、かならずしも一本釣りが良いというわけでも無いようです。
どういうことかと言いますと、赤道直下の遠洋の一本釣りの場合、釣り上げられてすぐに、マイナス何十度という高濃度塩分を含んだ氷水液につけ込まれてしまうため、自己消化によって魚体が熟成する前にカチカチに凍ってしまうそうなのです。
一度凍ってしまうと、細胞が壊れてしまうので、もうそこから自己消化が進むことはないとのことで、一本釣りだったとしてもイノシン酸の少ない鰹節になってしまうのです。つまり、旨みの少ない鰹節になってしまいます。
一方、近海一本釣りの場合には、超低温で凍らされることなく鰹節製造の現場に届けられますので、その移送の期間中にほどよく熟成が進んで、イノシン酸が増えた状態になるようなのです。だいたい18時間から丸2日くらいと言っていました。
なるほど、「近海」の一本釣りが良いというのには、そういった理由もあったのですね。
盲目的に一本釣りイコール美味しいと早合点してはいけないようです。
しかし!「近海一本釣り」が絶対に美味しい、
というのも、早合点のようです。
え。。。
というのも、黒潮に乗って日本近海まで上がってくるカツオは、豊富なエサにより体に脂肪をためこみます。いわゆる「脂が乗った」状態になります。これは、刺身やタタキには最高ですが、鰹節にとっては過度な脂は逆に味を落とす要因となります。
ということで、今度は近海一本釣りのカツオだったとしても、どういう脂質のカツオを仕入れてどういうふうに鰹節を作っているか、という作り手にもよってもまた味が変わって来るのです。
となると、商品に表示されている情報からは、その鰹節が本当に美味しい鰹節なのか、判断がつきません。
はあ、これは困りました。
しかも、魚体はそれぞれ生き物ですから、個体差があります。
はっきりいって一本一本全部味が違います。
こうなると、もはやお手上げ。一本一本削って確かめるわけにもいかないですし。どうしたら良いのでしょう。
というところに、「目利き」という存在が大事になってくるのです。
はっきりいって、素人目には外見からは判断が全くつきません。何度説明されても、わかるようなわからないような。。言われてみれば違うけれど、言われなきゃわからない。もっとわかるようになりたいとは思うものの、365日毎日毎日何百本の鰹節とにらめっこ出来るほどの時間もありません。
ここは、もうプロに任せましょう。
自分一人で全部出来るようになろうと思うのではなく、それぞれのプロフェッショナルに頼むということが大事なのだなと改めて感じます。
作り手も大事だけど、それを見極める人も大事。その視点がこれからの時代をもっと面白くしてくれるかもしれません。
写真コーナー
巻き網漁で捕られたカツオは、魚体がひどく損傷しているものが多いです。
尾っぽがほとんど残っていないものが多く、釣り上げられる際の壮絶さが伝わってきます。
口があいているものも多く、これは生きたまま凍らされた証拠のようです。
なんだか可哀想。。
一方、近海一本釣りのカツオは、ご覧のように魚体はキレイなまま。
おなじカツオでも、捕られ方と冷凍のされ方で、見た目にも味にも差が出てしまうなんて、びっくりです。
ちなみに、巻き網漁は、カツオの群を一網打尽にしてしまうので、生態系が狂ってしまいます。
一本釣りは、群れを全部を全滅はさせないので、持続可能な猟法です。
安くて美味しいものを求める消費者がいる限り、巻き網漁はなくならないでしょう。
そして、ある日海からカツオが居なくなったときに、初めてその愚かさに気がつくかもしれません。
しかしその時になって気がついても遅いのです。
たかがカツオ節、されどカツオ節。
私は、将来も、美味しい鰹節で美味しい味噌汁が飲みたいですねえ。