必要最低限の機能美
形あるものは全て、その形になる意味があるはずです。しかし、装飾的なものも多いので、それがノイズとなって、本質が見えにくくなっていることもあるかと思います。
そこで、このシリーズでは、世の中にある普段見過ごしてしまうような何気ないものを「見る」練習をしていきましょう。
第一回は、送水口です。
これです。よく街で見かけますよね。
これ、火事のときに消防車がホースを繋いで水を送るためのやつです。歴史も古そうなのですが、今回はデザインの観点から見ていきます。
まず目にとまるのは、大きく二つに分かれた口。蓋には手掛かりとなる「突起」があり、回転できることを形そのものが示唆しています。そして、蓋に繋がれた「鎖」がこの蓋が「取れる」ことを伝えています。そこには、言葉はありませんが、誰にでも伝わってくると思います。
私は、この中で、「鎖」が、とても意味があると思っていまして、鎖があることで、蓋の紛失を防止するとともに、火災の緊急時に、急いで蓋を開けても蓋が落下して怪我をするようなことを防げます。そしてなにより勢いよく回しても大丈夫だよ!という安心感を与えることができると思います。また、同時にイタズラしてもこの蓋は持って行けないよ!という犯罪の抑止力にもなっています。
この安心感と抑止力を与える、というのが一番大切なポイントで、単に落下防止をしたいだけなら、わざわざこんなに見せびらかすように鎖をつけなくても別の形も考えられます。しかし、あえて、鎖を見えるようにすることで、人の心理に訴えかけます。
そこには余計な説明文も要りません。必要最低限にして最大限の効果を生み出す最もシンプルな形、そこに本質があり、美しさがあるように思えます。それこそがデザインがやるべき本当の役割なのかもしれません。
こうやってみていくと、送水口って、つくづく完成されたデザインだなぁ、と惚れ惚れします。
ちなみに、なぜ二口必要なのかを調べたところ、
消防法施行令第29条第2項第3号『送水口は、双口形とし、消防ポンプ自動車が容易に接近することができる位置に設けること。』
という記載があり、法律で決まっているからみたいでした。
じゃあなぜそう決める必要があったのかが、推測の域を出ないので、ここは後日もう少し深掘りしていきたいと思います。
どうやら、新橋に送水口博物館というニッチな場所があるようです。送水口マニアというのも居るようです。
うーん面白そう!!送水口に関しては、何回か記事を書いていくかもしれません。
送水口コレクション
レトロな感じで素敵です。
近代的な建築は、こういう埋め込みパターンも多いです。
おっと!法律違反? 一口タイプ
圧巻の大量タイプ。
新築マンションにあった送水口なんと、手掛かりの出っ張りがない!そこまで削ぎ落として機能するのだろうか。