実は発酵食品!?
はい、そうなんです。
正しくは、発酵の過程を踏んだかつお節が存在します。
かつお節は、大きく分けると、種類が二つありまして、一つは「荒節」、もう一つは「枯節」です。
その違いは、カビで熟成したか、そうでないかです。カビがないのが「荒節」、カビをつけたのが「枯節」になります。
では、なぜそんな二種類が生まれたかというと、実は江戸時代の物流の事情が大きく絡んでいました。
今日はその歴史から紐解いていきましょう。
かつお節の歴史自体は古く、縄文時代から似たようなものは食べられていた形跡があるそうです。保存食として日持ちするように、かつおを茹でた後に煙で燻して脱水と殺菌を行なうという、かつお以外にも通じる加工方法で作られていますので、昔からだしの素材として使われていたかどうかは分かりません。もしかしたら、鮭とばのような感じで、お酒のつまみに普通に食べられていたかもしれませんね。
いずれにしても、冷凍や物流の技術が無い太古の時代の先祖が、たくさん獲れたかつおを無駄にしないように出来るだけ長く保存できるよう工夫した結果が、かつお節という形になっていったとも言えると思います。
この「食材を無駄にしないように工夫する」というのが、漬物や干物、発酵食品など、現在のバラエティ豊かな食文化にも大きく寄与しているところが興味深いです。
ちょっと話は逸れますが、アイデアは満ち足りている時に生まれるのではなく、「どうしようもない制限や制約がある状況で、いかにハッピーになれるか」、というときにこそ初めて生まれて発揮されるように思います。納豆だって、茹でた豆を藁に入れておいといたら、腐ってしまったけど、捨てるのもったいないから食べてみたら、美味しかったとか、蒸した米を樽に入れて置いといたら、白いカビがもうもうと付いて、水を入れてほっといたら、お酒になってたとか、もうそんなんばっかりです。そんな腐ってみえるものを食べてみようと思った先人たちに、感謝です。(というか、もう食べるしかない状況だったりもしたのでしょうね)
いまの時代のように、古くなったら捨てて新しいものは簡単に買い替えられるという満たされた状況だと、新しい発見やアイデアって生まれにくそうって思っちゃいますね。と、憂いていても進まないので、話を戻します。
産地と江戸の位置関係がカビを生んだ
かつおの産地として有名なのは、鹿児島県や高知県です。
ここで水揚げされたかつおは、遠く大阪や江戸に運ぶために、茹でられ、燻され、カチカチにされて船で運ばれました。
そうしますと、大阪のほうが距離が近いわけで、大阪に届く段階では、そのままの保存状態で送れました。
ですので、大阪には荒節の文化が根付きました。
次に江戸に向かって船を進めるわけですが、当然長い航海を続けるうちに、積んだ食材は傷んできます。かつお節も例外ではなかったようで、船の中でカビだらけになってしまいました。ああ大変。せっかくの売り物がカビてしまっては売れません。そこで船乗りたちはカビを拭いて船の上で天日に干して誤魔化そうとしたようです。そしてまた荷物室にしまっておくと、またカビがついてしまった。また日に干す。ということを繰り返して江戸までやってきました。
もうお分りですね。当初はカビはつけたくて付けていたわけではなく、運んだ状況の中で仕方なくついてしまったのです。
しかし、このカビはミラクルな作用をかつお節に起こしました。身の水分を抜き、脂分を分解し、かつお独特の魚臭さをとり、複雑な香りと深い旨みとまろやかさを生み出し、当初は腐ってしまったと思われたかおつ節をより洗練された、質の高いかつお節にして変えてしまったのです。
ちなみにこのカビをつける回数が増えるほど水分が抜けて旨みが増します。回数が多い方が手間も時間もかかりますので価格が高くなります。ネーミングも、「枯節」から「本枯節」と変わります。
カビ付けを2〜3回行なったものが「枯節」。4〜5回行なったものが「本枯節」と言います。
回数が多い方が良いという人もいますし、3回やれば十分、という人もいます。そのあたりは好みの違いになってくるのかなと思います。
まあそんなわけで、カビ付けしたかつお節の方が美味しい!ということになり、江戸では枯節の文化が花開きました。このかつお節の種類の違いは現在でも食の好みの地域差として東京と大阪で引き継がれています。大阪でたこ焼きやお好み焼きにかける鰹節は100%荒節です。文化人類学的にみても、実に面白いですね。もしも幕府が江戸に開かれなかったら、枯節というかつお節は存在しなかったかもしれませんね。
ちなみに、いまの話だと関西のほうが熟成が少ないかつお節文化だから、貧相に思われるかもしれませんが、そこはまた違う話があり、北海道からやってくる「昆布」というもう一つの出汁のスター選手の存在が大きく影響して来るのです。これもまた北前船という物流のルートが関わってくるのですが、
この話もまた面白いエピソードが満載なので、次回とします。お楽しみに。
訂正)
にんべんのホームページによると、江戸時代、大阪に運ぶ際にもカビが発生していたようです。そこで、悪性のカビを防ぐ目的で表面に優良なカビを1回だけつけていたとのことです。大阪向けのかつお節は腐敗防止目的のカビ、江戸向けのかつお節は美味しく良質化する目的でカビをつけたということです。
現在は荒節はカビ付けしていません。