今日のテーマは煮干しです。
その名の通り、煮て干すので、煮干しです。関西では「いりこ」と言いますね。
主にカタクチイワシを煮て干したものが一般的な煮干しのイメージですが、マイワシやウルメイワシ、トビウオ、小さなタイ、貝柱など、小さい魚介類ならどんなものでも煮干しになります。素材によって出汁の味わいももちろん違うので、いろいろな煮干しを試すと、結構楽しいですよ。
カタクチイワシの煮干しも、瀬戸内海など内海で採れる白っぽい見た目の煮干しは「白口」、太平洋の外洋で採れる青っぽい見た目の煮干しは「青口」と言います。
内海の方が流れが穏やかなのでイワシもぬくぬく育ち。外海の方が過酷に揉まれて生き抜くハードコア育ちなので、味わいも、外海の方がより「魚感」が強いパンチのある出汁に、内海の方が、上品な出汁になります。このチョイスは好みになりますので、好き好きです。
大きさによっても大羽だの中羽だのかえりだの呼び方があります。乾物屋で「白口の大羽ありますか?」とか聞くと、「お、こいつはわかってるやつだな」と思ってもらえます。(ただ、その後の会話を続けられないとすぐになんちゃって野郎だとバレますが)
一度煮るのはなんで?
煮てしまうと、旨みも溶け出しちゃうんじゃないかしら、と思いがちですが、筋肉に含まれる旨み成分のイノシン酸は、熱が加わることでたんぱく質が凝固してイノシン酸の分解が抑制できるので旨みが残ったままにすることができるのです。これはかつお節を作るときに最初に煮る工程を入れるのと同じです(煮熟と言います)。熱を加えるというのが非常に大事なのですね。煮干しは煮て干したら完成。かつお節は、煮て干して、燻製して、菌つけして、干して、菌つけしてを繰り返して完成しますので、かつお節のほうが手間がかかるので、グラム当たりの値段も高くなります。
もちろん、煮ることで旨みが出てしまう要素もあるので、火が入って生じゃないギリギリのところであげてすぐに冷やすそうですが、魚の大きさや状態の個体差はそれぞれですから、絶妙なタイミングで上げて、いい仕上がりの煮干しを作るのは、一種の職人技の世界だそうです。ちなみに、煮汁は煮汁で食品メーカーなどに売られることもあるようで、「魚介エキス」とか「かつおエキス」とか表示に書かれているものがあればそれです。
カタクチイワシは、とにかく足が速くて(腐るのが早くて)、魚体ももろいので、鮮度が命です。水揚げしてからすぐに腐敗が始まるので、いかに腐敗する前に煮熟できるかが命で、冷蔵技術のない昔は船の上で揚げたそばから茹でていたりもしたそうです。それくらい腐るのが早いのです。
煮干しといえば、瀬戸内海の伊吹島が有名ですが、ここの何がすごいかと言いますと、漁協に煮熟する工場があるので、船からホースで吸いあげたカタクチイワシをそのまま煮る工程まで持っていけるという最強な環境を持っているため、この島産の煮干しはブランドとして有名になれたのです。
とはいえ、魚もいつも同じ場所で捕獲できるわけではないですし、採れた魚が煮干しとして美味しくなれる素材かどうかは一定していませんので、伊吹島産だから必ず美味しいとも限らないんですって。(と、築地の乾物屋のオヤジに小一時間説明されたことがあります。)
脂分が多いと、すぐに酸化する
煮干しの品質の判断は、鮮度以外に、脂分がどれくらい含まれているかが重要になります。脂が多いと酸化しやすいので、出汁をとった時に味が落ちますし、日持ちも悪くなります。だから脂が少ない方が上質な煮干しということです。築地で量り売りしている店なら、買う前にポイっと一匹渡されて食べさせてくれます。値段の違いごとに食べ比べてみると、確かに値段が高い方がいい味がします(食べくらべなきゃ、わからない次元ですけど)。酸化が進むと、油焼けして見た目も悪くなりますから、やっぱりいいものを買っておいた方が結果的に長く使えると思います。
刺身や煮物、焼き物にも出来ない小さな魚だけど
煮干しって、なかなか料理の主役にはなることはないですけれど、まだ小さいうちに捕獲されてしまって使い道がなくって捨てれちゃったり、肥料にされちゃったりするよりは、ずっと価値がありますね。魚なんて世界中で採れますが、小さな魚でもこうやって上手に活用するなんて日本くらいじゃないかしら。改めて日本人に生まれてよかったなあと、煮干し出汁で作った味噌汁をすすりながら思うのでした。