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UMAMI だしについて 丁寧に暮らす

天然か人工か、二極対立ではないのかもしれない話

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出汁について深みにはまっていくと、かつお節であれば近海一本釣り、昆布であれば天然物、しいたけであれば原木栽培、といったふうに気持ちが流れていきがちです。

それぞれには、理由とか言い分があって、そういった情報を見聞きしていくとだんだんとその気持ちもストイックになりがちで、こじらせていくと、自分の生活には関係なくても、そうでない商品に対して攻撃的になっていったりすることもあります。(よく無添加食品とかにハマっていくと陥っている人がちらほら・・・)本人としては正義の気持ちなので悪気もないのですが。

しかし私としては、自分が買いたいものは、もちろん体に害がないものであったり、環境に負荷が少ないものであったり、誰かだけが悪どく儲かるシステムでなかったりするようなものに越したことはないのですが、それもその人の選択する価値観だと思うし、押し付けるのもどうかなあとおいう思いがあり、そのモノサシに当てはまらないものに対して攻撃するというのも違うのかなと思っています。しかし、片方の情報しか知らないと、実は最近すごく頑張っているもう片方がいたとしても伝わらなくなるということも起こるということがありまして、今回まさにそんな話があったので、書いてみたいと思います。

 

乾しいたけで唯一有機JAS認証を取り続けている菌床しいたけという存在

岐阜県に日本で唯一菌床栽培のしいたけで有機JAS認証を取得し、しかも循環型農林業を促進している「ハルカインターナショナル」という会社があります。以前何かのネットニュースでその存在は知っていたのですが、まあ所詮菌床栽培でしょ?っていう斜に構えた目線で見ていました。

そんななか、ある日、一通のメールが届きました。ハルカインターナショナルの社長さんからです。「え?え??」びっくりしました。

メールを読むと、私自身がこのブログで発信している原木栽培への賛美が、いまは良いものはそれだけじゃないんだぞ、ということをお伝えいただきました。

ぼくは翌日すぐに電話をして社長様とお話して、その生産へのこだわりやビジョンなどを聞かせていただき、ここには書けないようないろいろな業界のお話も知りました。

なるほど、たしかに菌床栽培の菌床に使われる素材はオガクズや木質成分であるわけなので、里山を整備しながら循環型として生産していくことも可能です。わたしは社長様の話を聞き、何を大切にして何を世の中に提供できるのか、そしてそれが地球や人にとって嬉しいことなのか。そういった観点で活動していることが大切であって、原木だから良い。菌床だからダメという安易な判断はするべきではないと考えるようになりました。

やはりそれぞれの言い分をわかった上で、どちらを選ぶかということをしないといけないのだなと強く思いました。

そして、嬉しいことに、ほししいたけのサンプルをいただきました。

 

どちらが素晴らしいということはない。どちらも素晴らしい

ハルカインターナショナルさんからサンプルとしてほししいたけをいただきました。そこで、原木栽培と味わいや特徴にどんな違いがあるのか、さっそく同じ条件で出汁を取って試してみました。

まずそれぞれの見た目ですが、ハルカの方はちょっと小ぶりな感じです。しかし軸はかなり太くそしてまっすぐです。傘も丸く歪んでいません。これは菌床の特徴でもあります。原木栽培の場合、原木の分厚い皮を破って椎茸が生えてくるためその時に歪むことが多く椎茸の傘が凹んでいたりすることが多いです。また原木を斜めに立てかけてそれに対してしいたけは上に向かって生えていくので軸も曲がっていることが多いです。それが菌床栽培となるとそういった環境ならではの弊害がないためまっすぐすんなりと生えてくるためこのような型になります。

では水で戻していきます

それぞれ冷水につけて冷蔵庫で一晩

戻りました!こっちが菌床

こっちが原木です。

大きさ以外にも見た目にかなり違いがあります。菌床の方がシワが少なく全体的にハリがある感じ。原木のほうは傘に割れ目がたくさんあり少しボテっとしつつ重厚感がある感じ。うーんこの感じ。例えていうなら、小学校1年生のランドセルと5年生のランドセルの違いって感じです。

原木は収穫までに2〜3年かかるという物理的な時間と、自然環境そのままで育つため風雨や気温の変化といった中で育ちますのでやはりそれ相応の見た目になっているという感じ。対する菌床はハウスの中で管理された中で数ヶ月育って完成されるためなんというか、苦労を知らないボンボンといった感じ。環境が見た目を作るんですかね。なんでも。(もちろん菌種による違いもあるとは思います)

では出汁はどうでしょう

こっちは菌床

こっちは原木です。

見てください。このアクの量の違い。同じように煮出したのに、原木の方が圧倒的にアクが多く出ます。これは味わいにどんな違いが生まれるのでしょうか。

さっそくテイスティングしてみます

ちょっと写真がブレてしまいましたが、菌床の方が若干色が薄いような感じもしますが、見た目にはあまり違いは無いようです。

つぎに香りですが、これは結構違いました。

言葉で表現するのは難しいのですが、それぞれにそれぞれのしいたけの香りがしたということで、どちらが優れているといったことはありません。

そして味わい

これもかなり好みによって意見の違いが出る気がしますが、菌床の方が雑味が少なくすっきりした味わい。原木はより木の香りが強く感じられ自然のものという印象が伝わってきます。ただ、どちらが美味しいかそうでないかと言われると、これは本当に好みで。ボジョレーヌーボーが好きな人もいれば、年代物の濃口のワインが好きな人も居るわけで、甲乙つけるのもちょっと違うのかなという思いです。

最後に、グリルして醤油をかけてしいたけ本体を食べてみました。(ほとんどの人にとってはこっちの方が大事よね!?)

これ、なんというか、個人的には原木栽培の農家さんがいなくなるのは日本のために良く無いと思うのでとっても応援しているものの、それぞれにそれぞれの美味しさがあります。決して菌床の方が味が薄いとか、食感が悪いということはありませんでした。

違うのは、それぞれの個性です。

もちろん原木栽培のほうが圧倒的に大きく肉厚で食べ応えもあるので、煮物や腕ものの具材、精進料理のメイン食材といったものには圧倒的に原木が優位になると思いますが、たとえば刻んで炊き込みご飯やパスタに入れるといった使い方であれば菌床栽培でも全然OK。

なんだか食わず嫌いをしていた自分が恥ずかしくなりました。

 

選ぶべきはその生産者が持つビジョンかもしれない

こうなってくると、いったい何を基準に商品を買うと自分も気持ちよくなれるんだろう。そんなことを考えるようになりました。

そう考えると、一つの答えが出てきました。

 

それは、生産者の考え方に共感できるか否か
 

もちろん、ものづくりを極めようとすると誰だって良いものをしっかり作りたいということになってくると思います。しかし営利と慈善の間で、キレイゴトだけでうまくやっていけるほどこの世の中は甘く無いのも事実。生活をしていくためには目を瞑らなくてないけない部分だって出てくる。でも、できるだけそれを少なくして、社会活動をつづけることが世の中や環境のためになっているという方向性を持つトップがいるかそうでないかでおそらく作るものは変わってきます。だから、これからはそういったビジョンをもっているかどうか。共感できるかどうか、そういったところが価値判断の基準になってくるのかもしれないと思いました。

え?いちいち毎日の買い物をする時にそんなこと気にしていられない?

でも、全ての生産者の顔が分かるものだけを仕入れをしているレストランだってあります。それは確かにストイックではあるけれど、やれなくはない。

結構前に「買ってはいけない」という本が流行りましたよね。

 

ああいう、人を不安にさせるネガティブアプローチは私はあまり好きではありません。

これからの時代は「これを買おう」という情報が溢れていくべきなのかもしれないなと思いました。みなさんはどう感じますか?

 

 

追伸

私は運営するサイト「Milsule」では菌種違いの原木椎茸の通信販売を行っています。これも一つの他にない選択肢だと自負しています。面白がって美味しく食べるのが一番!しかも生産者もハッピーに!みんながハッピーでありますように!

-UMAMI, だしについて, 丁寧に暮らす

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