今回の「作り手物語」はインタビュー形式ではなく、お話を聞いたことを自分なりの言葉にまとめてお伝えしようと思います。埼玉県草加市の住宅街のなかで無化学肥料・減農薬栽培にこだわり、生産と販売を行なっているChavi Peltoさんにお邪魔してこれからの農業のあり方を伺いました。
都市部だからこそできる農業を追求する
都市部における農業、普段あまり意識したことはありません。そもそも都心に住んでいると「農家」という存在はずっと遠いし、接点などないというのが普通です。そんな中、都市部だからこそできる農業があるというChavi Pelto代表の中山拓郎さん。
とっても興味深いですよ。
ここChaviさんは、空撮写真の通りそこまで広大な土地があるわけでもなく住宅に囲まれています。草加市という場所は埼玉県ではありながら、都心から20km圏内に位置する場所。電車に乗れば1時間以内でほとんどの大都会に出ることが出来るエリアであるため、ベッドタウンとしてたくさんの人が生活しています。周りには大きなマンションもたくさんあり、郊外というよりはちょっとした都市という印象。
そんな草加市で有機栽培の認証を受け、少量多品種という栽培にこだわり、旬の野菜を生産し、地元はもちろん都市部にも販売をしています。有名シェフからの引き合いも多く、一般の方なら都内では水天宮の遠忠商店さんなどで買うことができます。
畑には常にたくさんの種類の野菜が育っていて、列ごとに全部種類が違うという普通の農地では考えられない多様な光景が広がります。
さらに農園は法人化していて従業員も雇い、併設の店舗では野菜の販売、その野菜を使ったお惣菜やお弁当の販売、食材や調味料の販売まで手がけています。オーガニック野菜というとかなり変わった山奥の仙人みたいな人が作っているのかと思いきや、ちゃんと地域に根ざして雇用を生み出して活動されています。
日本の農家はほとんどが家族経営である中で、常にエンドユーザーに受け入れられる野菜を意識しながら、こだわり尽くして生産をしていらっしゃるという稀有な存在なのです。
Chaviさんとの出会いは、鹿児島県枕崎市。
かつおぶしのタイコウさんの鰹節製造の視察に便乗したときに拓郎さんの奥様であるカンナさんがいらっしゃいまして、一緒に鰹節を見て回ったのがきっかけです。その後しばらく細く繋がっていましたが、今回は別途撮影のご縁をいただきお邪魔したのですが、当初は撮影をするだけのつもりが、話を聞けば聞くほど興味深すぎて、これは記事にしなくてはいけない、もっと多くの人に知ってもらうべきことだ、と思った次第なのです。
そもそも農産物といえば、一般の人にとってはスーパーで買う物であって、その野菜の生産者が誰なのか、どんなこだわりで作っているのかといったことなど意識することなく、値段が安ければ今日はラッキーくらいなもので、買っているのがほとんどだと思います。
しかし、そういった目線で消費される野菜を育てる目的の農業は、農家としては1平米あたりどれだけ多く生産できるかが主目的になりがちです。そうなると、農薬も使うし化学肥料も使うしなるべく早く収穫できるようにするし、といったことに目が行くようになります。
そこで起こることとは、豊作になりすぎてしまった場合には価格が下落して、たくさん育っているのに全然儲からない。という負のスパイラルに陥るということにも繋がっています。豊作すぎて野菜が捨てられているというニュースもたまに聞きますよね。
なにより、こういった類の農業をしていると、どんな人がどんなふうに食べてくれているのか、作り手からは買い手が見えないので、ただただ作るだけの工場と変わらないので、モチベーションがなかなか保ちづらいそうなんです。しかしいまはそれが一般的。
この生産型農業に疑問を抱いたのが、中山さん。もともとは家族代々地元に根ざした一農家だったそうなのですが、都市部では土地の広さが限られているのだから、生産量だけを追い求めたのではとても地方には太刀打ちできない。であれば、もっともっとひとつひとつの野菜にこだわり、それぞれにストーリーがあることを伝え、生産者の顔が見え、相手から求められる野菜づくりがあるのではないか、ということでこのスタイルをスタートさせました。
中山さんのこだわりは、聞けば聞くほど凄いことばかり。有機JAS認定を受けた農場として農薬や肥料には厳密な決め事をしているのはもちろん、一般的にはよく使われる動物性の肥料は一切使用しません。なぜならその動物が育てられていたときに抗生物質を投与されているかもしれないから、間接的にそういったものが農場の土に入ってくる可能性がゼロと言えないのであれば使わない、という徹底したポリシーで生産を行なっていらっしゃいます。
都心部20km圏内という立地を生かす
都心部から20km圏内ということは、実はメリットでもあります。なぜなら朝採れた新鮮な野菜を都心部に住む人たちがその日の夕食に使うことができるように販売できるようになるからです。
遠く離れた地方の産地からも朝採れの野菜は届くことはありますが、そもそも移動距離が短いということは物流にかかるCO2排出も少なく済むということ。さらに電気自動車で直接都市部に宅配しているというこだわりようですから、地球環境に与える負荷も限りなく減らせます。
さらにすごいのが、売れ残った野菜は併設の店舗で翌日のお弁当やお惣菜に変身します。このお弁当の美味しいこと美味しいこと。野菜の味がすごく良いし、味付けもそれぞれに工夫と一手間がかかっています。
お弁当はその日の朝に奥様のカンナさんがメニューを考え、午前中は戦場のようにたくさんの種類のお惣菜を作ります。そしてそのお惣菜のひとつひとつは全て使った調味料や産地などが書かれた紙が渡されます。
これは、どんなものが使われているのかわかるという安心感ももちろんですが、味が気に入ったときに材料がわかれば自分でも家で同じものが作れるように、ということなんだそうです。もう感動以外にありません。
そして最後にはそこから出た生ゴミは畑の肥料に分解されてまた戻っていきます。まさにサスティナブルなサイクル。これこそ真のSDGsと呼べる世界なのでないかと思いました。
中山さんのポリシーは「自分が居なくても、このサイクルが回るような仕組みを作ること。」
だから、身につけた知識や経験は惜しみなく若い世代に伝えています。
農業体験も広く受け入れていて農場にはいつも誰かがニコニコしながら畑で何か作業をしているように見えました。来たい人は「どうぞどうぞ」というオープンな空気が漂っています。
なんだろうここは。楽園なのかな。
植物を育てることは本来は自然なこと。その当たり前のことが、農業というビジネスになってしまうとたんに、不自然なことがたくさん起こってしまいます。そんな不自然さに疑問を抱き、本来のあるべき自然なままで実践し、そしてちゃんとビジネスとして成り立たせているということがなによりも凄いことだなと思うのでした。
話し出すと熱い思いがとまらない中山さん。とてもこの1ページには収まりません。
これからいくつかの動画にしてお伝えしていこうと思います。
都市部だからこそ有機農業が存在できる場所がある。面白くないですか?排ガスにまみれたコンクリートジャングルだけが都会ではない。なんだか面白くなってきましたよ。
乞うご期待ください。
Chavi Pelto(チャヴィ・ペルト)
〒340-0034 埼玉県草加市氷川町2138-3
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