みなさんは原木しいたけと聞いてどんなことを思いますか?
普段そんなことを気にしたことはないと思いますが、実に魅力的なストーリーが詰まっている食材でもあるのです。
そもそもは高級食材であった
いまでこそしいたけはスーパーに行けば、100円200円という金額で手に入る身近な食材ではありますが、実は比較的の話。かつては松茸よりも高級な食材として珍重されていました。
しいたけ自体の歴史はとても古く、鎌倉時代の典座経典にもしいたけが登場するくらい古くからあります。しかし、当時は人工的にしいたけを生産することはできず、しいたけができそうな環境を作ってそこに菌が付着してしいたけができたらラッキーくらいなものだったので、かなり博打の要素もある生産品だったとも。そんなものですから希少性が高く値段も高くなるということなのですが、実際にうま味成分の含有量は松茸よりも上、美味しさでいえばしいたけのほうに軍配があがるということなのです。そんなしいたけが安価に買えるようになったというのはそれはそれでありがたいことではあるのですが、同時に工業製品のように計画的に生産できるようになって失われてしまったものもあります。そう、ここにいま菌床栽培と原木栽培という二極がでてきたのです。
原木しいたけは、香りと味わいがかなり違う
普段みなさんがなにげなくスーパーで安く買っているしいたけはほぼ100%菌床栽培です。原木栽培はほとんど都心のスーパーに出回ることはないため、食べる機会はほぼありません。
なぜスーパーに出回ることがないかというと、それは原木は自然環境そのままで育てるから、指定された日に指定の量の品を出荷できる保証ができない、ということでスーパー側からすると計画を立てることができないため扱えないということになっているのです。
だから、原木しいたけはもっぱら乾燥させて乾しいたけとして出回ることになるのです。
しかし、現地で生の原木しいたけをぜひ一度食べてみていただきたいのです。
その味、香り、ジューシーさは、普段食べている菌床栽培のしいたけとはまるで別物。「ああ、しいたけってこんなに美味しかったんだあ」と感動すること間違いなしなのです。
原木でしいたけを育てると、山が更新される
原木しいたけを育てるということは、その土台となる原木を山から切り出してくるわけで、山の手入れをするということがもれなくついてくることになります。
山は自然のままに放っておけばいいというわけではなく、適度に人が手入れをしていくことで、人間が住み着いて何千年となる地域環境の循環が始めて成り立っています。
放っておくと、木はどんどん伸びていき、葉っぱが森を覆い、下草が枯れてしまいます。そうすると下草を食べていた野生生物が食べるものがなくなり、食物連鎖のピラミッドが崩れ始めます。時には人里に降りてこなかった生物が田畑を荒らすという被害もそういったことによるものとも言われています。ひとたび山が死んでしまうとそこから再生していくというのはかなり難しくなってしまいます。
つまり、ある程度人が介入することで循環するというのが日本の山の本来あるべき姿であります。
原木しいたけ農家の減少
原木しいたけ農家はここ近年減少の一途です。
そこには、大変な仕事の割には儲からなくなってしまったという現状があります。1年を通して山を手入れして肉体労働につぐ肉体労働。しかも儲からない。となると若手でやりたいという人が出てこなくなってしまいます。なぜ儲からなくなったかというと、結局は菌床栽培で安いしいたけが出回るようになってしまったため、価格で太刀打ちできなくなってしまったことによります。また、中国産のしいたけの輸入、食生活の変化、ハレの日を家で祝うことが減少。などなど、良いしいたけをあえて使うという場面も減ってしまったということによります。
なかなか前途多難な原木栽培しいたけ。
でも、しいたけ農家がいなくなってしまうと、山は後退して、災害などが起こった時にも酷い土砂崩れが起こってしまうなど、おそらく他人事ではないようなことが起こってしまっているのがますます身近に迫ってきているようにも思います。
たとえばコーヒー豆ではフェアトレードという商品があったりして最近価値が出ていますが、しいたけもそういった新たな伝え方をして、需要を増やしていくべきなのかもしれないなと思う今日この頃なのでした。しかし少しだけ明るいニュースもちらほらと。そんな話はまた次回。しばらくしいたけの話が続きます。
ということで、今回はそんな思いを動画にしました。