「何十年も入れ替えずに育ててきたなんとかばあちゃんのぬか床」と聞くと、さも熟成されてマイルドで市販品にはないような深い味わいのぬか漬ができるんだろうなあと思いますよね。はい、もちろん美味しいです。間違いないです。若いぬか床はまだ慣れていないというか、薄っぺらい塩辛いだけの奥行きのない味がするものです。
やはり、毎日素手でかき回されたぬか床は、それぞれの手にある常在菌をとりこみ、時間を重ねていくうちに、ぬか床という閉鎖されたミクロコスモスの世界でその家その家の独自の味わいが形成されていくのでしょう。時間が経てば経つほどにそれが完成していきます。ボジョレーヌーヴォーとヴィンテージワインくらいの差はあるのではないかとも思います。実際、うちの叔母の家のぬか漬けを食べると、いつも心の中で「負けた」と思います。年数にはかなわない世界。
しかし、実はここに大きな落とし穴があるのをご存知でしょうか。
それは、残留農薬の濃縮の問題です。
え?農薬??
はい、そうなんです。
漬ける野菜が全て有機無農薬野菜だけでやっている家でしたら、何の問題もないのですが、スーパーで買ってくる類の野菜を着けている場合、実は農薬成分がどんどん糠に溶け出していきます。それが何十年と蓄積されたぬか床となった場合、どうでしょう。考えただけでもちょっとぞっとしませんか?1回1回はごく微量でも、何十年も蓄積されたら、相当な農薬が床に濃縮されてしまいます。
うちはちゃんと洗ってから漬けてるから大丈夫。という方もいらっしゃると思いますが、本気で農薬を落とそうとしたら、相当の水を使うか、専用の洗剤で洗い流す必要があります。漬物にそこまでやっている人はどこまでいるでしょう?
もちろん、ぬか床は、フグの卵巣の毒を無毒化するくらいな強力な解毒力も持っていますので、多少農薬の毒素を打ち消していっている可能性はあるかもしれません。ただ、それも憶測にすぎません。農薬には味も香りもないので、私たちの味覚では良くわかりません。ましてそれぞれの家庭のぬか床がどれくらい残留農薬に侵されているか調べようもありません。
そう考えると、「美味しい、健康、ヘルシー」に「農薬のおまけ付き」を追加しなくてはいけないかもしれません。つまり「自然のままでおいしい≠安心安全」ということになってしまいます。
うーん困った。。
ここで一つ提案です。
足しぬかをするときに、元のぬかを半分くらい思い切って捨てちゃいましょう。
えええ!? せっかく育ててきたのに、勿体無い〜。と思うかもしれませんが、実際乳酸菌の繁殖力はすごくて、2〜3日あれば、けっこう復活します。もちろん最初はちょっと若い味がしますが、何度か漬ければすぐにいつもの味になります。結局元あった菌のバランスに近づいていくので、その家の味というのは守れると思います。いまどきせっかく努力してぬか床を育てているのなら、せめて「おいしくて安心安全」なものでありたいですよね。
こうやって何十年も継ぎ足していければ、これは最高のぬか床になっていくと思います。
安心でうまいものを食べるには、いつだって多少の努力は必要なのだ。
(あ、ビールと麹をちょっと入れると美味しいですよ)