発酵を考える

【コラム】自然災害と発酵食品ブーム

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大きな災害が起こると、その後には必ず発酵食品がブームが来ると言われています。

 

たとえば、大正時代、関東大震災の後には信州味噌がブームにが起こりました。先だっての東日本大震災の後は、麹を筆頭にあらゆるところで発酵ブームが起こりました。思い返せば、2011年より以前に麹なんて言葉さえ知らない人も多かったですし、甘酒といえば、酒粕をお湯にといて砂糖で味付けしたものしか知らなかったはずです。しかし、麹の甘酒はいまや豆乳の販売額と同等レベルまで来ていますし、塩麹なんかも料理をよくする人にとっては欠かせない調味料になっています。ここまで来ると、もはやブームというよりは生活に溶け込んできているレベルまで浸透しているかもしれません。

 

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

 

あらためて考えると、発酵食品は、「健康」だの「旨み」だのいう以前に、そもそも保存食です。冷蔵庫の無い時代になんとか食材を無駄にしないで食べる工夫の集大成ですから、災害が起こってインフラやライフラインが壊れてしまったときには、発酵食品はとても頼りになります。特に時代が進んだ現代になればなるほど、電気ガス水道が止まったときに頼れる食品は、缶詰などの保存食か発酵食品しかありません。そうすると、やはりそういう場面に直面したときに、あらためてその存在のありがたみを感じるんだと思います。

もちろん、ブームになるにはきっかけもあり、関東大震災のときには救援物資として信州から東京に大量の味噌が送られたことが始まりでした。その後信州味噌は東京に定着し、東京で味噌といえばけっこうな割合で信州味噌を使っている家庭は今でも多いと思います。そういったきっかけはブームを呼び、そしていつしか生活に溶け込んで定着していくのです。スイーツ系のブームとはちょっと違うようなベクトルで浸透しているような気がします。

  

しかし、それ以上に大災害というのは、人の心に強い何かが影響しているのではないかとも思うのです。

 

つまり、大きな災害に直面すると、生き残った人が感じるのは、「人間は本当にちょっとしたことで生死が分かれてしまう、もろくあっけない存在」ということで、明日が当たり前にくると信じて疑わなかった日常というのは、実はとても貴重で幸運だったということです。

そのときに、今この瞬間のこの人生を輝かせようと思うのかもしれません。

そんなおりに、ふと食に目を向けたとき、発酵食品というのは、実はいまこの瞬間も常に生きていて、止まることなく1日として同じ状況は続かない存在です。「行く川の流れは絶えずして」に通ずる、諸行無常そのものがそこにあり、保存食でありながら、菌が食物を分解しながら別のものに変え、発酵食品となり、そしてさらに発酵が進んで、やがて土に帰る。彼ら(菌)は叫んだりわめいたり泣いたり笑ったりすることはなく、ただただ粛々と目の前の細胞をチョキチョキ切って分解しつづけ、切るものが無くなり他の菌が優勢になると、その役割を終え、文句も言わずに黙って消えて無くなります。

その姿に、自分の俗な心を照らし合わせると、発酵というのはどこか厳かで神秘的で計り知れない存在であり、なにか気づきを与えてくれます。少なくとも考える「きっかけ」となるのが、やはり大きな災害があったときなんだろうと思います。

もちろん、ほとんどの人はそんなたいそうなことは考えないかもしれません。しかし、災害の記憶と儚さというのは大なり小なり各人の心に刻み込まれています。そういった潜在的な意識に、おそらく発酵食品というのは入り込んで来やすいのではないかと思います。

 

この先、平穏な時代が続くのかあるいは波乱の時代がやってくるのかわかりません。しかし、発酵という現象はブームがあろうがなかろうが、彼らは彼らの第三世界で黙って発酵し続けます。とにかく、ひたすら粛々としているのです。人は、これからも「発酵だ!発酵だ!」と浮世のブームの浮き沈みを繰り返すでしょう。しかし、大きな発酵という世界の広い床の上で魑魅魍魎としているのは、もしかしたら我々人間なのかもしれません。


お金儲けしたい人は、次の大災害が起こったら、なにか発酵食品を始めるといいかもしれませんよ。(でも、そういう裏心だけは心が腐敗してしまうと思いますけどね)

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