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九州、醤油アバンギャルド

投稿日:2019年9月7日 更新日:

醤油といえば、全国津々浦々、日本人なら誰もが毎日身近に使う調味料の王様。

そんな醤油ですが、「九州の醤油は甘い!」というのは有名な話ですよね。

なんで甘くなっていったのか、その理由は諸説あるようですが、気候、風土、歴史的条件、地域の好みなど、いろいろあって甘くなっていったようで、九州でも南に行くほど甘くなるようです。

先日九州を旅行したのですが、よくよく見ていくと、ただ単に甘い醤油と一括りにできないほどバラエティに富み、顧客の好みに合わせて細分化していった様々な醤油に出会いました。これほどまでに醤油をいじくりまわしてしまう地域もなかなかないんじゃないかと思い、今日はその軽いレポートをします。

まず、日本には醤油を作ってるメーカーって1000社くらいあるんです。そのうち福岡県だけで、100社くらいあります。で、福岡県醤油醸造協同組合というのがあって、そこで大量に醤油の元を作って、小さなメーカーはそこから醤油を仕入れて、味の最終調整を自前の工場で行います。砂糖を加えたりアミノ酸を加えたり、サッカリンなどの添加物を入れるところもあります。

添加物が良い悪いという話はここではさておき、とにかくベースの醤油をどんどんアレンジしちゃいます。スーパーに行くと醤油の品揃えの多さに毎回驚きます。なんだか大手メーカーの醤油が肩身が狭く隅に置かれています。

関東ですと、いわゆる濃口醤油以外はあまり見かけません。いわゆるキリッとした濃口。

しかし、九州では、濃口醤油にばんばん味をたして商品にしていきます。味付けしちゃうということは、ベースの醤油がそんなにおいしくないからそれをカバーするためなのかなと思ったりもしたのですが、そんなことはなく、むしろ組合の醤油は毎年全国で高い評価を得るくらい素晴らしい濃口醤油を作っています。

これだけ醤油の数が多く、しかも淘汰されずに小さいメーカーが残っているということは、それぞれの醤油にそれぞれの味付けの個性があり、その醤油で育った家庭は他の醤油に移れないほどその家の味を決めて行って居るのでしょう。それぞれに長年お得意さんが居て、代々受け継がれているということだと推測されます。

たとえば、コーヒーの世界で言えば、オーストラリアのコーヒーカルチャーは独特で、地域に根付いた地元の小規模のコーヒー屋さんがしっかり根付いているので、大手世界的コーヒーチェーンが参入しても、現地で受け入れられずに撤退して行きました。ここ九州では、醤油がそんな空気感と近しいものを感じます。

この地図は福岡県朝倉市の醤油メーカーの分布。たったこれだけの範囲だけ切り取っただけでもこんな感じなので、九州人の醤油への愛が伺い知れます。平成に入ってから新しく立ち上がった醤油蔵さえあります。まだまだ現在進行形。

ちょうどお盆の時期だったこともあり、閉まっている蔵も多かったのですが、蔵の側に降り立つと、ほのかにそこには醤油の香りが立ち上っていました。

隣の大分県日田市に味を伸ばしました。ここにもいくつか醤油蔵があり、一番老舗そうな日田醤油という蔵が街中にいくつも店舗を出していました。

味見もさせてくれますが、どれもすごく甘い。そして、うま味が強い。

「これ、サッカリン入ってます?」

「おう、もちろん、入っとぉよ。うまいやろ?」

と、悪びれもせずむしろ自信満々に答えてくれます。

これは、大手キッコーマンの九州向けの醤油なのですが、やっぱり、いろいろ入ってます。

もうそれがスタンダード。

「うまくち」という名前がついているものも多いです。

本来醤油はJAS規格では、濃口、薄口、白、たまり、さいしこみ、という5つの分類しかないのですが、うまくち、というジャンルを勝手に形成しています。「うまくち」なんて言われたら、とっても美味しそうですよねぇ。

この写真の左の透明な液体。これは熊本のフンドーキンの透明醤油。技術を駆使して醤油の透明化に成功しました。

真ん中は日田醤油のだしも入った醤油。もはや、この商品名の通り「これ一本」で味付けが完成してしまいます。

右はさきほどのキッコーマン。

なんなら、ポン酢だってあまくちです。これは鹿児島のヒシクです。

その一方で、協同組合による工業的な醤油づくりに疑問を感じて、一から蔵で手作りをしている若き醸造家もいるのがなんとも九州らしい。ここもお休み中でしたが糸島半島のミツル醤油さん。東京でも知る人ぞ知る最高にうまい濃口醤油を作っています。ここの「生成り。」は、ヤバイくらい絶品です。

とにかく、九州はアバンギャルドで自由で、それを受け入れるユーザーがいる。

これこそが九州の醤油のバラエティを支えている源なのかもしれません。

ちなみに、九州の甘い醤油は関東の濃口に比べると、塩分濃度が3パーセントくらい低いです。

なので、魚にもよりますが、お刺身は、醤油をべっとり付けて食べるのが正解。これに、濃いめの焼酎と合わせていくと、実にバランスのいい味わいとなります。

なるほど、お酒の文化も食の文化に影響しているんだな。

そんなことを考え、九州の夜は醤油とともに煮締まっていくのでした。

みなさんも、九州は甘い!と一括りにせず、いろいろ見ていくと、非常に独創的でバラエティに富んだ醤油に巡り会うことができると思います。

ぜひ、味わってみてくださいね。

-よく観察する

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