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UMAMI 発酵を考える

【古今東西発酵食品】ベジマイト

投稿日:2019年7月22日 更新日:

ベジマイト、ご存知ですか?

よく罰ゲーム的な食材として出てくるこの食品、輸入食材屋さんなどで見かけることもよくありますが、前情報が悪すぎるので、一瓶買ってマズかったらどうしようという思いがよぎり、いつも手に取るものの、なかなかレジに持っていくことが出来ずにいました。

しかし、発酵の勉強をしてからは、このベジマイトは完全なる発酵食品だということが改めて分かり、隣のクラスの気になる女の子的な存在として個人的注目度がアップし、チラチラしていました。

そんな中、幸運にも一口サイズのベジマイトをいただく機会に恵まれ、体験することができました。

(ありがとう中村さん)

 

オーストラリア版、酵母エキス

で、試食する前に、そもそもベジマイトとはなんじゃらほい。ということですが、wikiペディアによるとこうです

ベジマイトはイースト菌抽出物(酵母エキス)やを原料に作られている。これはビール醸造の副生成物であり、麦芽抽出物を含む。栄養面ではチアミン(B1)・リボフラビン(B2)・ナイアシン(B3)・葉酸(B5)などのビタミンB群に富んでいる。

味や製法はマーマイトに酷似しており、マーマイトをもじった「パーウィル(Parwill)」という商品名を使用していた時期もある(“Ma might not like the taste, but I’m sure Pa will”「ママはこの味が好きじゃないかもしれないけど、パパならきっと好きだと思う」)。

ベジマイトはビクトリア州メルボルン近郊の工場で製造されており、オーストラリアを中心に年間2,300万個が販売されている

要するに、ビールを作った時にできる酒粕を使った発酵調味料ということです。日本酒でもお酒を絞った後には酒粕が残りますが、ビールも当然酒粕が残ります。

で、酒粕は実はまだまだ栄養や旨みがたっぷり残っているので、捨てちゃうのはもったいない。だから、それを有効活用したのがベジマイトということです。

 

ちなみに、天然出汁の世界では忌み嫌う、「酵母エキス」と「たんぱく加水分解物」。どちらも有機物を分解して旨み成分を抽出したものになるのですが、ベジマイトは要するに「酵母エキス」そのものです。これは何を意味するかというと、要するに「旨みそのもの」です。酵母は麦の細胞を分解してアルコールと炭酸ガスと旨みに変えます。アルコールと炭酸ガスはビールになりますが、残った成分は旨みなわけです。

オーストラリア人は朝食にバターを塗ったトーストにこのベジマイトを薄く塗って食べるというのがポピュラーです。

なるほど、これは、つまり、ハムやベーコン不要で、旨みたっぷりの満足感あるトーストが食べられるということを意味します。

 

だんだん見えてきました。

つまり、なんていうことのない平凡な日々に、ビールの残りカスから作った安価な塩漬けの旨みペーストをちょこっと加えるだけで、贅沢をしなくても、美味しい毎日が過ごせる、という庶民の願いが形になったペーストなのです。

では、なぜ罰ゲームとされるほどマズイと言われるのでしょうか?

 

それは、食べ方が間違っています。

 

マズイマズイ言っている人は、大抵スプーンですくってそのまま口に入れて「オエー!」と言っています。このベジマイト、確かに独特の八丁味噌のような発酵臭がしますし、相当塩分が強いですから、そんな食べ方をすれば誰だってそうなります。

しかし、例えばアンチョビをそのままバクバク食べたらどうでしょう?臭くてしょっぱくてまずいですよ。それと同じことをして、ベジマイトはマズイと言っているのは、まったくナンセンスです。


味の素だって、ほんの耳かき1さじでも料理の旨みがアップします。旨み成分は多ければ多いほど美味しいと感じるわけではなく、あるラインを超えると飽和状態になって感じなくなりますので、ほんの少しで十分なのです。

 

ということで、正しいベジマイトの食べ方

 

たっぷりのバターにほんのわずかなベジマイト

このやり方は、NtSの中村さんに教えてもらたのですが、確かに正しかった。

ベジマイトは相当塩辛いので、バターは無塩バターにしました。

それをちょっと多めにトーストに塗りまして

ベジマイトはほんのひとすくい

それを薄く薄く塗っていき

全体に馴染めば完成です。

いやはや、楽チンです。この小さな携帯ジャムのパックで多分5回くらい楽しめます。

それくらい少量で十分でした。

味わってみますと、バターのコク、トーストの焼ける香ばしい匂いに、強烈な旨みが加わった美味しい物体になっていました。生ハムでも乗っているんじゃないかと思えるくらいの旨みを感じます。

ああ、これは庶民の味方だ。

オーストラリアの国民食といわれるのも分かる気がしました。

お金持ちは厚切りのハムサンドでも毎日食べていれば良いんです。

でも、広く一般の多くの庶民にはこのベジマイトが救世主だったのでしょう。

 

塩気が強いのは、発酵を止めるためと、保存を効かせるためと、塗りすぎないためだと思います。本当にちょっとで十分美味しいのです。

面白おかしくギャーギャー言って騒いで注目を集めるためのような一発狙いの食べ物ではなく、ちゃんと地に足がついた調味料だたのです。

しかし、お酒は世界中で作られているのに、こういった旨みペーストがそれほど作られていないのは、どういう理由があるんでしょうね。

まあ、日本で言えば、ご飯を食べる副菜として漬物や梅干しなど別の発酵食品が十分それの機能をしていたのでわざわざ酒粕からこういったものをつくる必要がなかったということもあるでしょうし、パン文化では、当然バターやチーズといった動物性の発酵食品で旨みが足されていったというのがあります。しかし、チーズ作りにそれほど適さない地域でのパン食文化圏では、別の手段で旨みを足していく必要があったのかもしれません。あるいは単なるビール文化圏の人たちが発見したのかもしれません。いずれにしても、文化人類学的に発酵食品の成り立ちを見ていくときっといろいろな発見があって面白そうだなあと思うのでしたが、そういえば、そういうアプローチはすでに小倉ヒラクさんがやっているので、僕は、やめておくことにします。

 

いずれにしても、ベジマイト。アリです!

食べ方さえ間違えなければ、美味しくいただけます。

 

次回はこれを使ってちょっと実験しちゃおうと思います♪

つづく

-UMAMI, 発酵を考える

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