発酵を考える

【コラム】戻れる現代、戻れない発酵

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発酵の勉強をしていると、「不可逆」という言葉がよく出てきます。

そう、菌の活動による発酵のプロセスは性質上、逆戻りはできません。

たとえば、乳酸発酵した液が次にアルコール発酵し、酢酸発酵するという過程では、糖をエサにして繁殖した乳酸菌は乳酸を出して酸性にし、他の雑菌が繁殖しにくくなった環境で酵母が糖をエサにしてアルコール発酵し、やがて酵母は自らのアルコールで死滅します。そして、今度はアルコールを餌にする酢酸菌がアルコールを分解して酢酸を出してお酢になる、というプロセスをふみますが、餌にするものと出すもの、出されたものから次の餌になるもの、という順番があるので、逆に戻ることはありません。つまり、アルコールからお酢はできるけれど、お酢からアルコールに戻ることは絶対にありません。

 

日頃パソコンを相手に仕事をしていますと、間違えた作業は「command+z」ボタンを押せば「undo」となり、無かった事にできます。そうです、デジタルの世界では、一度やってしまったことでも簡単に戻ることができますね。

良くも悪くも、大学生の頃からパソコンでカタカタやりはじめて20数年、物事は後戻りできるということが当たり前になってしまっています。むしろ、後戻りできないということのほうが不便に感じてもいるふしもあります。もちろん、鉛筆と消しゴムの時代から、書いては消してということはしてきましたし、「ごめん、いまのやっぱ無し!」みたいなことは人とのやりとりではいくらでもあります。仮に、誰かと喧嘩しても時間をかけて仲直りするとか、いろいろな場面で後戻りというのはできますので、人間社会の中においては「戻れる」というのはむしろメリットなのかもしれません。もしくは、人間が生み出した文化的な到達点こそが実は「可逆性」ということだったのかもしれませんよ。そう思うと、「可逆」というのもまんざら悪いものでもないのかも。


 

しかし、そんな「戻れる」現代社会に慣れ親しみながら、自宅のキッチンの片隅で日々なにやら瓶につめた怪しいものをポコポコ発酵させたりしてますと、常に「戻れない」を目の当たりにします。一度酸っぱくなってしまったものは二度と戻らないし、腐敗菌に侵されてしまったものは治りません。糠床は毎日違う表情を見せて、一度として同じ調子の日はありません。「行く川の流れは絶えずして」の世界そのものがこのミクロワールドの中に広がっています。当たり前のことなのですが、その当たり前が人間社会の「戻れる」感覚に慣れていると、「不可逆」という現象が時に新鮮かつ、緊張感や責任感といった気づきを与えてくれるように思えるのです。

 

そんなことをキッチンの片隅の小さな壺の中を眺めながら、考えたりすることができるのも発酵の良さ。ついつい忘れがちな「いまを生きる」という当たり前のことを思い出させてくれます。

私が発酵を勉強しているのは、発酵食品が体にいいからどうのこうの、というのももちろんあるのですが、それ以上に、この「生きてる」っていうことを軸に、「生産」「消費」「分解」という「循環・サイクル」を身近に感じさせ気づかせてくれることが多いので、何かに迷った時に立ち返る考え方として良いなと感じているからです。その副産物として美味しい糠漬けがいつでも食べられたりしているような感じですかね。

 

ところで、「だし」は、薄かったら、追い鰹すれば良いし、濃かったら水で薄めればいいので、多少「Undo」が効きます。とすると、考え方によっては、だしは「可逆」なのかもしれません。とすると、「だし」というものは、より高度な人間社会の中における文化的な生産活動とも言えるのかもしれません。うーん、我ながら新しい視点。

(まあ、味付け含む調理全般が文化的生産活動になるのかもしれませんが)

 

などなど、「だし」と「発酵」を二軸で見ていると、ときどき面白い視点が見えてきたりするので、幅広く見ていくというのはいいなあと思います。まあ、好きでやってますんで、これからも心のアンテナがビビビッてくることにどんどん進んでしまうと思いますが。笑

 

ということで、たまには真面目なコラム記事でした。

さて、明日は何漬けようかな。

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