乾しいたけといえば、だしソムリエ的には、うま味の三大成分のうちのひとつグアニル酸が含まれる代表的な出汁素材です。
おそらく普通の人にとってはあまり意識しないかもしれませんが、その乾しいたけも、いろいろと種類があったりします。だしに興味を持ち始めると主に下記のあたりがお悩みポイントとして出てきます。
●国産か、外国産か
●原木栽培か、菌床栽培か
●どんこか、香信か
まあ、なんとなく国産が良いだろうし、原木栽培のほうがよさそうだし、実際価格にも差があるし、と思うわけですが、鰹節ほど主役を張るような立ち位置でなく名脇役的な存在だけに、あまり深く知らずにきているという人も多いのではないでしょうか。
そこで、実際のところ、どんな味の違いがあって、どういう傾向があるのか、私も復習をかねて、あらためて見ていくことにしましょう。
今回用意したのは4種類です。(中国産の菌床栽培が手に入らなかったので、これはまた後日)
※ちなみに、「どんこ」と「香信」とは、椎茸の種類の違いではなく、傘が開いているか開いていないかの違い。
原木はナラやクヌギの木に菌を植えつけて2〜3年かけて収穫するもの。菌床は、おが屑や糠などをまぜた人工の床に菌を植えつけてハウスで栽培されて数ヶ月で椎茸になるものです。食品表示基準では原木と菌床は必ず表示しないといけないので、スーパーなどでもその文字は見たことがあると思います。
まずは、重さから見ていきましょう。それぞれ同じ重さにしたときにどれくらい違うか見てみます。
ご覧のように、国産の原木のどんこが一番こじんまりとしています。
裏を返せば、1つあたりの密度が高いとも言えます。
実際、一番左の菌床椎茸は、薄くて軽くてペラッペラな印象でした。
では、出汁にはどんな違いが出てくるでしょう。
同じ量の水につけて、24時間冷蔵庫に入れて出汁を抽出します。
(乾しいたけの出汁は、5度付近の温度帯が一番旨味が出ますので、冷蔵庫にいれて抽出するのが一番美味しく出ます。ちまたでは、いろいろ早く戻す技は紹介されていますが、なんだかんだじっくり冷蔵庫で抽出した出汁に勝るものはないと思っています。時間に勝るものはありません。)
24時間後、それぞれを鍋に入れ、一煮立ちさせて冷ましたら出汁の完成です。
見た目はどうでしょう
ご覧のように、国産どんこが一番色が薄く、国産香信が一番濃く出ました。中国産原木と国産菌床はあまり色の差はありません。ただ、国産菌床の椎茸の量の割には色が出ていない印象があります。しいたけ1個あたりの出汁の色の出方は原木の圧勝というところでしょうか。
では、肝心の味わいをテイスティングしてみましょう
まずは、国産どんこ。
さっぱりとした香りの後に、口に残る余韻とまろやかさが非常に伸びやかで、上品な旨味と甘みを感じます。
次に、国産香信。
口に含んだときに立ち上がる香りが圧倒的に強いです。「これぞしいたけ!」という香りが鼻から心地よく抜けます。しかし、余韻に後引く旨味はどんこより劣る印象。旨みが少ないというよりはスッと抜けていくような感じです。
次に中国産香信。
国産に比べると鼻から抜ける香りが劣ります。余韻に残る旨味の感じは国産の香信とそれほど差が無いように思われました。しかし、原木は原木。いちおうそれらしい香りは楽しめました。
最後に国産菌床。
まず香りが全然違います。原木と菌床の差は圧倒的です。栽培方法でこれだけ香りに差が出るのですね。原木は木そのものの香りを感じましたが、菌床はなんだか重みが無いように感じられました。ただ成分としての旨味の感じはまあ悪くはないのかなという印象。
こうして味わってみますと、立ち上がりの強い香りを求めるならば、国産原木の香信。上品であと引く旨味を求めるならば、国産原木のどんこ。というチョイスになるかと思いました。
なるほど、最近なかなか乾しいたけの需要が伸び悩む中、「国産原木」を一生懸命に推している理由がとてもよくわかりました。
味と香り、やっぱり、違います。
もちろん、デイリーユースのちょっとした使い道ならば外国産だったりというチョイスもあるのかもしれません。しかし、外国産はほとんど中国産なので、なんとなく心理的に障壁があります。これも食品表示法による弊害なのですが、国産は産地を県名で表示するのですが、外国産は国名だけの表示で良いことになっているので、ざっくり中国と言われてしまうと、中国のどこで作ったものかというのがわからないので、仮に大丈夫なものだったとしても、ちょっと心配になってしまいます。海外産も生産地の県や省まで表示してくれるようになるともう少し違うのかなと思いますが。。。
ということで、まとめます。
やはり、国産原木の乾しいたけは、味も香りも抜きん出ていました。どんこの方が値段が高いですから、普段使いは香信でも問題ありません。
とっておきのお吸い物を作るときにはどんこ一択。繊細なお出汁が引けて、ここは料亭ですか?と言われるようなお出汁になると思います。
ちなみに、デパートで桐の箱に入っているような1万円超えの立派などんこは残念ながら味わったことはないのですが、聞くところによると、大きさと形の違いだけで、出汁という観点ではそれほど違いは無いと言われています。高価な椎茸ほど、大きくそしてキレイに整っています。食べる目的でしたら、たしかに大きい方が食感もより素晴らしい事は想像に難くありません。(まあいつか実際に高価なものも試してみたいですが、いまのところお財布事情的に厳しいので、だれかパトロンが現れないかなと思うところ。笑)
やはり百聞は一見にしかずです。いまはインターネットで調べれば大抵の情報は出てきます。それでわかったような気になりがちですが、そこはリアルに感じることで初めて自分のものになります。
この情報過多の時代だからこそ、求められるものだと思います。
★★★最後に宣伝させてください★★★
今日味比べしたテイスティングは、2019年7月7日(日)に鎌倉クレインポートで開催するワークショップでも同様のことをご案内いたします。楽しいお話や椎茸のフルコースなど盛りだくさんのプログラムとなっていますので、ぜひみなさんも一度体験してみていただけると嬉しいです。
https://www.facebook.com/events/428244111351503/
次回は食べる目的での乾しいたけについて書きたいと思います。
つづく。