今日は正統派、「だしと発酵」の記事です。
突然ですが、みなさん、生のマイタケをつかって茶碗蒸しを作ると、卵が固まらないという現象をご存知でしょうか。
これは、マイタケが出す酵素がタンパク質を分解する「プロテーゼ」という「酵素」が非常に強い力を持っていて、60度くらいでその威力が最大化され、しかも80度くらいまでその酵素が失活しない、という作用があるために、たんぱく質である卵が「分解」されてしまって固まらないという現象です。なので、熱々の卵液なのに全然固まっていないという謎な状態になります。(それはそれで愉快なのですが)
で、なぜそんなトリビアネタを書いたかと言いますと、
マイタケの酵素によってたんぱく質が分解されるということは、たんぱく質は分解されてアミノ酸に変化するということです。アミノ酸はうまみの一要素です。溶け出したアミノ酸は、うまみが溶け出したということになりますので、ビビビっと来ました。
つまり、マイタケを使って動物系の出汁を引けば、いつもの出汁がさらに旨味を増すのではないかということなのです。
ということで、今回はこのような検証をしました。
かつお節厚削りとマイタケを一緒に水に入れ、60〜65度の温度で数時間キープし、出汁を引く
同時に、比較用にマイタケを使わずに普通に出汁を引いたものも使って官能チェックします。
ちなみに、「発酵」の定義は諸説ありますが、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんはこのように言っています。
「発酵とは、地球上で発生する微生物の還元作用のなかから、人間に役立つものだけをピックアップして応用する技術であり文化です」
ということは、今回のマイタケ菌が出す酵素を使ってより美味しく出汁を抽出する行為は立派な発酵となります。
では、行きましょう。
まずは、マイタケとかつお節のかつお節の厚削りを用意。
マイタケは細かく手で裂いて、保温瓶に入れて水をなみなみ注ぎます。
ヨーグルトメーカーを使って、今回は65度で8時間キープしました。
そして、8時間後、鍋で火にかけて弱火で沸騰させて5分ほど煮出しました。
(普通厚削りは15分〜30分くらい煮出すことが多いですが、ヨーグルトメーカーから出した時点で既にかなり出汁が出まくっていましたので、あまり煮過ぎてもえぐみが多くなりそうだったので5分としました。いずれにしてもマイタケの酵素の力を止めるために火入れはしなくてはいけません)
ざるで漉したら終了。
煮出した後の厚削りです。
これ、かつてないほど、色が抜けて白っぽくなっています。
そして、噛むと、やわらかいとは言わないまでも、ちょっと固めのハムくらいな感じで、全然食べられる食感に仕上がりました。確実にプロテアーゼが働いた感じがします。
検証比較用に、普通に厚削りを煮出した出汁も別途引きました。
こちらは20分ほどコトコト抽出。
ご覧ください。この差。
左が厚削りだけ、右がマイタケを使った出汁。
ともにかつお節の使用量は同じです。
色の差が全然違います。
そして、肝心のお味ですが、
マイタケは、思った通り、濃い出汁が出ていました。美味しい!
かつお節だけの通常出汁と味比べしても、歴然の差が出ていました。
圧勝です。
ちなみに、マイタケのプロテアーゼでたんぱく質が分解された成分自体は、イノシン酸ではないと思います。イノシン酸は核酸の一種で、筋肉に含まれているATPという物質の量で決まりますので、その総量は変わらないので、アミノ酸が分解した別の成分が旨味として増補されるものと思われます。具体的に、グルタミン酸などの数値が上がっているのかは個人では調べられないですが、いずれにしても何らかのアミノ酸に分解されることで旨味が増しているものと思われます。「だしと発酵」冥利に尽きます。
なにも麹や乳酸菌だけが発酵ではありません。
よく見回してみると、身近に発酵の存在はたくさんいるのです。
不思議なのは、60度で効力が最大になるマイタケ。自然界のデフォルトの状態で60度なんて温度なかなか無いのに、なんでそういう場面で最大になるだろうか、ということ。
まあ、この近辺の温度は麹も同じことが言えますが、不思議です。誰か菌マニアの人、理由を教えてください。
ちなみに、副産物として生産される出汁ガラも、ちょっと柔らかくなるので、
うちは、佃煮にして食べました。いままでの厚削りだとちょっと食感が固過ぎて難しかったのですが
このマイタケ発酵を行うと、食べられる食感になります。
しかも、マイタケそのものももちろん美味しくたべることができますので、一石三鳥です。
みなさんもぜひ一度やってみてはいかがでしょうか?
ヨーグルトメーカーが無い方は、炊飯器の保温モードで蓋を開けっぱなしにしておくことで同じことができると思います。