ついにこの日を迎えました。
いまから、ほぼ1年前。
九州は糸島半島にある、醤油界の若きレジェンド「ミツル醤油」さんが東京に醤油作りのワークショップに来るという情報を入手し、これはなにがなんでも行かなくては!ということで参加したのでした。
仕込んだ醤油は、約1年の熟成期間を要します。
いつもキッチンの片隅で静かに鎮座していた自家製醤油。暑い夏も寒い冬もじっとそこにいて、その時を待っていました。そして、ついにその時がやってきました。この日、私は静かに興奮していた。
さあ、愛おしい我が醤油よ旅立ちの時間だ。
と、その前に、まずは仕込んだときのお話から
こちらが、小麦を炒ってクラッシュしたものと蒸した大豆をあわせて醤油用の麹で醸したもの。
そして、ペットボトルの中に入れて塩水とあわせます。
以上完成!
あまりにも素っ気なく、2分で仕込みが完了してしまいました。。
もちろんこの麹をつくるのが職人の世界なわけですから、ここからやれれば良いのでしょうが、出前ワークショップではそうもいきません。
ということで、城さんのさまざまな醤油にまつわるエトセトラのお話がメインのワークショップとなったのでした。それはそれでとても楽しかったので参加してよかったですよ。
ちなみに、この醤油用の麹。普段甘酒を作る用の麹とは全然匂いが違いまして。小学校のときに校庭の脇にあったウサギ小屋の匂いがしました。とても食べ物になるとは思えないファーミーな香りでした。
このときのレシピは
醤油麹:500g
塩:210g
水:700cc
です。かなり塩分濃度が高いですね。この状態でも麹が生きて発酵するというのはやはり、麹の中でも変わったやつなのでしょう。
で、仕込んだ後は、放置すればよいかというと、そんなことはなく。
●最初の1週間は、毎日よく振る
●その後8月下旬までは週1回振る
●9月からは月1回振る
●なお、5〜8月の間は発酵が活発でガスが発生するので蓋は緩めておく
ということをしなくてはいけなかったのです。
これは、なかなか手がかかるぞ。
生き物ですから、待った無しです。
ペットを飼うのと同じような覚悟が必要です。飼い始めるのは一瞬、飼い続けるのは一生。醤油も同じです。最後まで面倒をみなくてはいけません。
実際、夏の間はうっかり蓋を閉めっぱなしにしていると、爆発寸前にまで入れ物が膨れ上がっていたりもしました。危ないところでした。
これは仕込んで1ヶ月くらい経った頃の醤油です。
まだ黄土色で、醤油らしさはありませんでした。
しかし、匂いはすでに醤油らしい雰囲気を出していたのが懐かしく思い出されます。
で、その後、ちゃんと面倒はみていたものの、写真を撮ることはすっかり忘れてしまいましたので、以降は全て省略とさせてください。
そして、この冬、解禁の日を迎えました。
これが、絞る朝の様子です。
薄暗いキッチンに朝日が差し込んでいました。
ご覧のように、水分はほとんど減ることなく、見事なメイラード茶褐色に染まりました。
蓋のあたりは、1年間ふりふりした痕跡として長年継ぎ足された鰻屋のタレツボのようになっています。
さあ、醤油君、時間だ。
旅立ちのために、新しいさらしを用意しました。
ドゥブ、ドゥブ、ドゥブ。
鈍い音を立てながら、厳かに、そして荒々しくさらしの中に落ちて行きました。
大豆はまだ原型をとどめていました。
香りは、醤油そのもの。部屋中が芳醇な醤油の香りで満たされます。
あとは静かに、自重で垂れてくる液をじっくり1日かけて濾し取ります。
(これがいわゆる「一番だれ」というやつです)
で、この一番たれを使って、さっそく刺身を。
うっっっっっっっまーーーーー
できてるできてる!ミツル醤油ができてる!!!
感動です。
思わずそのまま飲んでしまいました。(しょっぱ)
このフライング醤油を味わえるのもの自家製ならではの特権といえましょう。
で、翌日。
今度は、自重で落ちてこない醤油を力一杯絞り出します。
これには、かなり力が入りました。
ワークショップに参加していた杉並マダムたちは、この作業は無事に出来ているだろうかと心配になりました。(ちなみに、ワークショップ参加の20名のうち、男子は私だけでした)
絞りカスはこんな具合です。まだ結構しっとり水分が残っている感じはあるのですが、私の握力ではこれが限界でした。醤油蔵では、プレス機で最後の1滴まで絞り取るそうです。このあたりの歩留まりの悪さも自家製ならではでしょう。
で、この絞りカスですが、これがいわゆる諸味というものでして、キュウリにつけて食べたり、ご飯のおかずにしても良いのです。日本酒でいう酒粕ですね。まだ醤油が絞りきれていない分、しっとりしていて美味しい。これも自家製ならでは。
最後に昨日の一番タレとブレンドをして、美味しい美味しい自家製醤油の完成となりました。
この味わいを言葉で表現するのはとても難しいのですが、
一言で言えば、ただひたすらにマイルド。
たとえば、キッコーマンなどの関東の醤油は、かなり直線的にツンと刺さるような強さがあるのですが、この自家製醤油は、横にふわんと広がるような感じで、まったく棘がありません。それでいて、芳醇な醤油の香りが口いっぱいに広がります。
これこそが、大量生産品にはできない、時間が作り出した美味しさなのでしょう。
なにより、ペットボトル一つで自宅でこんなに美味しい醤油が作れるということが感激です。
もちろん、手前味噌のように完全放置プレイは無理で、定期的な面倒見は必要です。しかし、死ぬほど仕事が忙しい時がある私のような人間でも作れたくらいですから、たぶんその気と覚悟さえあれば、誰にでもできると思います。
そして、なんとミツル醤油のホームページに仕込みキットが売っているのを発見。
みなさん。まだ今年間に合いますよ。自家製醤油作り。ぜひ挑戦してみましょう!
きっとプライスレスな味わい体験が待っていると思いますよ。
※ホームページを見ると「仕込んでから夏を2回越したら搾るタイミングです」と書いてある。。。な、なに〜〜〜。もう1年必要だった??ワークショップでは一年後で良いと言っていたような、、、でも充分おいしく出来ていた。これは今年も仕込んで2年後にまた記事を書くべきだろうか。
つづく