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【ストイックすぎる】白しょうゆの匠

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だしソムリエ醸造ツアー、後半の白しょうゆ醸造見学で聞いたこと、感じたことをまとめます。

 

白しょうゆ。関東圏ではあまりなじみがありませんが、濃口しょうゆとか薄口しょうゆとか、しょうゆのジャンルのうちの1つです。

一般的なしょうゆは大豆と小麦と塩で作られますが、白しょうゆはほぼ小麦と塩で作られます。最大の特徴はその色。とにかく薄い薄い琥珀色です。料理に醤油の茶色い色をつけたくないけれど醤油の味と香りは欲しいというときに重宝されます。薄口しょうゆも色が薄いのですが白しょうゆの色はその比ではありません。とにかく薄い。

では、どうやって色を薄くしているのか、ここに白しょうゆのストイックな作り方がありました。

 

今回訪れたのは、前回の杉浦味淋さんと同じ愛知県碧南市にある日東醸造さんです。

さっそく仕込みタンクのところに案内されて、解説がはじまりました。

ここで、いかに色を濃くしないかというポイントを教えてもらいました。

 

●その1:短期間

⇒ 一般的な濃口しょうゆに比べて、かなり短い期間で仕込みます。発酵の速度が早くならないように塩分濃度も高めです。

 

●その2:2回に分ける

⇒ 半分くらいまで発酵したら、まだ若い醤油を抜き取って、のこった小麦のもろみに再び塩水を加えて仕込み、最後に両者をあわせます。こうすることで茶色くなっていく期間を短くしながら、醤油としての旨味を引き出します。

 

●その3:混ぜない

⇒ 仕込んだら、とにかく混ぜない。じっとしておくそうです。普通しょうゆは発酵が進むように毎日のように混ぜ混ぜするのですが、それも色がつく原因。とにかく混ぜないんだそうです。沈んでいたもろみが浮いて来たら発酵が進んだ証拠ということで判断しているそうです。

(私は家で醤油も作っていますが、夏場は毎日混ぜてガスを抜いていました。これがけっこう大変で、放っておくと爆発しちゃうので、やらないわけには行かない。白しょうゆだったら混ぜなくていいから、家で作るなら白しょうゆの方がいいかも)

 

ということでとにかく、茶色くしないための努力というのが白しょうゆ作りの全てになります。

なぜそこまでして頑張るんだろう。。多少色が着いたって良いじゃないか。とついつい思ってしまいますが、とにかく白しょうゆは白いことが最大の価値ですから、色をつけないための努力というのは凄まじいものを感じます。まさに職人気質。

 

そして、この日東醸造さんは、他の白しょうゆメーカーから一歩抜きん出て、さらにストイックの極みへ突き進んでいました。

 

さきほど白しょうゆの原料は「ほぼ小麦」と書きましたが、しょうゆというのはJAS規格というのでガチガチに仕様が決まっていまして、大豆がちょっとでも使われていないと、「しょうゆ」と名乗っては行けないというルールがあります。なので、白しょうゆと名付けられている商品は、5%くらい大豆が使われているんです。しかし、大豆が醤油の色を茶色くする要因の1つでもあるため、本来ならば大豆は使いたくないところ。しかし、決まりがある以上は使わざるを得ないということなのです。

そんなある日、日東の現在の主人が、先代から「最近のしょうゆは変わっちまった。昔はこんなじゃなかった」という言葉を受け、しょうゆと呼ばれなくたっていいじゃないか!本物の白しょうゆを作ろう!という思いを抱き一念発起。チャレンジしたのが小麦100%の白しょうゆ作りです。グルテンフリーの対極を行く真骨頂!!

しかも、通常のしょうゆの製造は保健所から井戸水は使っちゃ行けないという指導のもと水道水を使わされていることにも疑問を抱き、足助町という碧南市から遠く離れた標高720mの愛知県の内陸に、廃校となった小学校を借り上げ、保健所を説得し井戸水で作ることまで成功させてしまいました。もはや、執念。。

塩にも小麦の生産にもこだわり、ついについに出来上がりました。

 

こうして商品化された白しょうゆは、「しろたまり」という商品名となり、商品表示としては、「小麦醸造調味料」ということになりました。

これこそ本物の白しょうゆなのに白しょうゆと名乗れない。JAS規格の頭の固さが歯がゆい。

大豆を1粒だけ入れて「白しょうゆ」と名乗るという選択肢もあったそうなのですが、小麦だけで作るということに徹底的にこだわることを選んだそうです。カッコいい。。。惚れてしまいそうだ。

さあ、これがストイックの極みの「しろたまり」です。

とにかく色が薄い!!

それでいて、醤油としての旨味、甘み、風味がちゃんとしています。

ああ、すばらしいなあ。

 

もちろん、濃口しょうゆと比べると、慣れていないぶん独特の風味を感じますので、使う料理は選びますが、しかし素材を引き立たせるための調味料としては相当素晴らしいものだと感じます。出汁とあわせても、出汁の風味を殺さないですし、素材の旨味も引き立てます。

「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」

というスローガンがありましたが、いやいやまだまだ知られざる日本の凄いもの沢山ありますから。

「狭い日本、それでも知らないことだらけ」

だと思いました。

 

しろたまりは、日東醸造さんのホームページから購入できますが、東京なら銀座の「職人醤油」さんでも買えたと思います。

見かけたら、これはマストバイな逸品です。

 

 

最後に、

 

最近まで知りませんでしたが、愛知県って発酵の世界ではかなり凄いものばかりなんですね。小麦しか使わない白しょうゆがある一方で、大豆しか使わない「たまりしょうゆ」も作っています。味噌も大豆だけで作った「八丁味噌」もありますし、ミツカン酢の本拠地も愛知県です。なんだかストイックなものばかり。いろいろ混ぜて平均的に美味しく中庸にするという路線とは真逆の、シングルモルト的な発想が惹かれます。

いままで、名古屋の食文化というと、味噌カツとか、天むすとか、なんか喫茶店のへんてこなスパゲッティーとか、ちょっと品がなくてB級な地方と勝手に思っていましたが、今回の訪問をうけて完全にイメージが変わりました。いやはや愛知県すごいです。また来たいと思いました。

企画してくださった、名古屋オフィスのみなさま、ありがとうございました!

お友達も沢山増えて、今回は得るものの多い旅になりました。

 

帰りは、みんなと別れたあと、名古屋駅周辺で味噌カツとどて煮を食べて、深夜の夜行バスで帰ったとさ。ごっつぁんです。

 

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