今日は、鯛の煮干しをご紹介。
煮干しというと、多くの方は下記のようなカタクチイワシのものをイメージすると思います。
出典:https://dictionary.goo.ne.jp/jn/167813/meaning/m0u/
しかしですね、要は、魚を煮て干せば、なんだって煮干しになるわけです。そして、それぞれのお魚によって風味や味わいも違ってきますので、なかなか面白いんです、このマイナー煮干しの世界。
カタクチイワシなんかは、煮干しにする目的で狙って漁にいきますが、こういった別の魚は、小さくて料理の食材には使いづらいけど、網にひっかかって死んじゃってるからリリースするわけにもいかず、でも捨てるのも忍びないというような魚が、煮干しとしてデビューするのです。捨てる神あれば拾う神あり。日本のもったいない精神の結晶のような存在です。いま、日本の社会では、一度でもスキャンダルを出すと、すぐにこけおろされて表舞台から消されてしまいますが、この煮干し業界では、間違って釣られた魚にも人を幸せにする余地が残されている、優しい世界なのです。えへん。
さて、この日は、築地に昆布を買いに行ったのですが、本体の目的以外にいろいろお店をめぐって珍しいものがないかと見るのも楽しみの1つでして、そこで出会った素材です。「ノドグロの煮干し」もゲットしたのですが、こちらはまた別途記事化しようと思っています。(というか、もともと、ノドグロの煮干しに興味をもって店の主人と話し込んだのですが、ノドグロ行く前に、あんた、まずは鯛を極めなさいよと怒られたので、鯛から行く事にしたという事だったりします)
小鯛といっても、鯛ですから、けっこう大きいです。どこからどうみても鯛ですねー。
重さも40g近くあります。
もちろん、いろんな大きさがありますので小さいものだと13gくらい。
出汁の世界ですと、だいたい1Lに対して20gっていうのが煮干の適量と言われてますので、大きい鯛だと1匹でも1Lだと濃く出てしまうかもしれませんね。
さて、で、この鯛煮干しを使って、まず何を作ろうかなあと思ったのですが、朝一築地でラーメンを食べている人たちの姿を見まして、どうもラーメンが食べたいモードになっていたので
いろいろな葛藤はあったのですが、鯛出汁ラーメンを作ってみようということにしました。
ということで、ラーメンだと、ちょっと出汁は強めのほうが良いだろうと思いましたので、
えいや!と2匹投入。昆布とともに水出ししました。
いまコーヒー業界では水出し(コールドブリュー)が流行っているようですが、煮干し業界は昔っからコールドブリューです。
3時間ほど漬けますと、ごらんのように、いい感じに色づいて、出汁が出ていました。
ここでスプーン一口、味を見ます。
ふわーんと、カタクチイワシにはない臭みのすくない出汁が取れていました。アゴともちょっと違う、他に形容できない鯛ならではの出汁を感じます。
ちなみに、築地の主人に、「水出ししたあと煮出してもいいの?」と聞いたら「馬鹿野郎、せっかく水出ししてるのに、そこから煮出したら、魚の臭みが出るじゃねーか。そんなのはアホのやることだ」と怒られてしまいました。失礼しました。煮ないと味が出ないという固定観念から早く脱したほうが良いです。
ということで、そのまま、ざるで漉します。出汁としては、鯛の出番は終了です。おつかれさまでした。(身はあとでちゃんと美味しくいただきますからねー)
昆布のぬめりと鯛の表面の灰汁が残っていましたので、ここは丁寧に取り除きましょう。(写真は取り除く前)
次にラーメンですから、脂も大事。僕はお手軽にラーメンスープを作る時は、鶏皮と長ネギと生姜を用意します。
これをじっくり炒めて、鶏皮の脂を全部出し切ります。
で、出来上がったのが、特製の鶏油(チーユ)です。材料費は激安なのに、けっこういい感じにコクが出ます。
で、このように鯛出汁に加えて、塩をベースに加えながら、香り付けに醤油を入れていけば完成です。
じゃーん。どうでしょう!美味しそうでしょ!
じゃ、いただきまーす
透き通ったスープがじんわり染み渡ります。鯛のうまみが上品に出ていました。これはめでたい。
お店で食べる魚介系スープって、必ずといっていい程、鶏ガラや豚骨など動物系のスープとブレンドしてパンチを出していますが、なんだか「うま味」が強すぎてインパクトばかり狙っている感じがして、くどいというか、品がないというか、ちょっと過激すぎるんですよね。逆にこれくらいシンプルにベースは煮干しだけ!みたいなラーメンだと、本当にスープの最後の一滴まで美味しく飲めていいなと思います。でも、このラーメンでお店やろうとしたら、たぶんインパクト弱いのでやっていけないと思います。家庭で作るラーメンだからこそできる、分かる大人のラーメンってとこかな。(自画自賛過ぎ!)
ふう。ごちそうさまでした。
で、今日はこれでは終わりません。鯛煮干しの記事でラーメンだけかよ、となるのも何なので、夜はもう一品。鯛の炊き込みご飯をつくりました。
炊飯器に、鯛の煮干し小さめのを2匹に水出しした昆布出汁と、出し殻の昆布を刻んで具にします。刻み生姜と淡口醬油、日本酒で臭みと香りをコントロール。あとは炊飯器で炊くだけ!
炊きあがりました!
むわーんと立ちこめる鯛の香り。おお、これは素晴らしい。食べる前から美味しいのが確定している香りだ。うん。
ここに、お昼のラーメンで使った鯛の身も、ほぐして入れて具を増します。ちょっと骨が多いので、身をほぐす作業はちょっと手間ですが、せっかくの食材を無駄にしないためにもここは丁寧に仕事してあげましょう。
あとは、よくかきまぜれば完成です。
じゃじゃーん。
ああ、美味しかったなあ。。しみじみ。こちらも、ラーメン同様にうま味がガツンとくるわけではないのですが、とっても品が良くて鯛のうまみが染みたご飯は格別でした。去年亡くなった父が、毎年お正月に鯛のお頭付きの塩焼きの骨にお湯を入れて即席の鯛茶漬けを作って「うまいうまい」と食べていたのを思い出しました。
付け合わせには、奈良漬けと一番だしのお吸い物。こういう料理には味噌汁はあいません。さっぱりした味わいに、ときどき奈良漬けのアクセントを加えて、リズムをつけます。
材料費はとても安いのに、なんだかハレの日の食事のようです。高級な肉や魚を買わなくても、手間ひまさえ惜しまなければ、立派なごちそうが出来るんだなあと思いました。
普通のスーパーではお目にかかれない、鯛の煮干しですので、これを読んだ方もなかなか手に入れるのは難しいかもしれませんが。築地ですと、こんな感じでビニールに入れて計り売りです。こんなに沢山使い切れないわ!という方もいらっしゃると思いますが、日持ちもしますし、まだやっていないのですが、素揚げにすれば、骨まで食べられるようになりますので、そのまま料理の食材として利用できるとのことです。なるほど、レパートリーが広がれば結構使えちゃうかも。(買ったお店を知りたい方はお問い合わせページからメール頂ければお教えします。)
鯛を通して、いろいろ思った日でした。
次回はノドグロの煮干しに挑戦します。